AIに振り回されず、やることを絞って立て直す|Ben Tossell氏の30日間の試みと就労移行支援

AIを使えば、資料作りも、アプリの試作も、作業の自動化も、一人でかなりのことができるようになりました。できることが増えるのは心強い一方で、あれもこれもと手を広げすぎて、どれも途中で止まってしまうことがあります。この記事では、AIの世界の最前線にいる一人の発信者が、自分の行き詰まりを率直に書いた文章を手がかりに、やることを絞って立て直す進め方を考えます。

「この10か月、何をすべきか分からない」

Ben Tossell(ベン・トッセル)氏は、AIの最新情報を届けるニュースレター「Ben's Bites」を運営している人です。以前は、プログラミングをせずにアプリやサービスを作る方法を教える「Makerpad」という事業を立ち上げていました。

Tossell氏は2026年10月28日、X(旧Twitter)にこう投稿しました。

「この10か月くらい、自分が何をすべきか分からず行き詰まっている。同じところをぐるぐる回っている。何もかもを問い直しては、また問い直している。わくわくしたことが、そうでもなくなる。良い事業の方向だと思ったものが、そうでもなくなる。」

この投稿には700を超える「いいね」が付き、9万回ほど表示されました。翌日、Tossell氏は自分のニュースレターで、この気持ちを「AI is overwhelming and I'm doing it wrong(AIに圧倒されていて、自分はやり方を間違えている)」という文章にまとめています。

始めたことのほうが、終えたことより多い

文章の中で、Tossell氏は今の自分の状況をこう書いています。

「始めたことのほうが、終えたことよりずっと多い。」

作りかけの講座は、だいたい7割まで進んだところで止まっている。プログラミングに詳しくない人向けに、AIの助手を使えるようにする道具は8割まで。ほかにも、終わらせるべき資金集めや、企業に声をかけるべき新しい広告の仕組みが残っている。

AIを使えば、思いついたことをすぐに形にし始められます。けれども、形にし始められることと、最後までやり遂げられることは別です。Tossell氏は「AIが仕事を片づけてくれるはずだった。ところが片づけてくれると、やれる仕事が際限なく出てくる」とも書いています。

まず、事業の中で減らした

Tossell氏は、この文章を書く前から、実際に事業の運用を減らし始めていました。

配信を週5日から週2日へ

ニュースレターを始めたころは、AIの動きをすべて追いかけるために、週5日配信していたそうです。けれども情報があまりに多く、騒がしいと感じて、週2日に減らしました。Tossell氏は、それに合わせて収入も減ったことを隠さずに書いています。

読まれていない6万人以上の購読を解除

さらに最近、ニュースレターを開封していなかった6万人以上の読者の購読を、自分の手で解除しました。読者の数が多いほど、広告を出す企業には良い数字に見えます。それでもTossell氏は「それはこの取り組みの目的ではない」と書いています。自分が面白いと思ったものを、読んでくれる人に届けたい、というのが理由です。

「困っていないのに、雇っているのでは」

Tossell氏は、自分がたくさんのAIの助手を同時に動かしていることにも疑問を向けています。

「会社では、人を雇うのはふつう、雇えば解決する困りごとがあるときだけだ。それなら、なぜ自分は、たいして困ってもいないことのために、いくつものAIの助手を雇って管理しているのだろう。」

そして、こう考え直しました。

「自分がAIの助手のために働いているのではない。AIの助手が、自分のために働くのだ。」

AIは、手を空けさせないように仕事を与え続け、管理し続けなければならない相手ではありません。自分がやりたいことを助けてくれる道具です。

30日間だけ、ルールを決めて試す

Tossell氏は、「答えは持っていない」と書いたうえで、これからの30日間、次のことを試すと決めました。

  • 朝いちばんに、頭に浮かんだことを書き出して、頭の中を整理する(モーニングページ)
  • AIの助手を使って作るのは、自分が面白いと思うものだけにする
  • はっきりした困りごとを解決するのでなければ、新しい道具は入れない
  • 長い記事をAIに要約させない。読むか、読まないかを決める
  • 「お金になるから」というだけの理由では動かない

どれも、大きな方針転換ではありません。期間を30日に区切り、守ることを少しに絞って、まず試してみるやり方です。

文章の最後には、もう一つ書かれていることがあります。投稿を見たAshe(アッシュ)氏という人が連絡をくれて、電話で話したそうです。Tossell氏は、その会話で「自分がしていることを見直すための、良い振り返りの言葉をもらった」と書いています。一人で同じところを回っていた考えが、外からの視点で少し動き始めたことがうかがえます。

働く準備でも、手を広げすぎることがある

この話は、AIの世界で事業をしている人だけのものではありません。就職を目指して準備を始めるときにも、似たことが起こります。

  • 資格の勉強、パソコンの練習、プログラミング、求人探しを、全部同時に始めてしまう
  • 新しい学習アプリや便利な道具を見つけるたびに入れて、使い方を覚えるだけで疲れてしまう
  • 「早く就職しなければ」と焦って予定を詰め込み、どれも途中で止まってしまう

AIや便利な道具が増えるほど、できそうなことは増えていきます。けれども、体力や集中力には限りがあります。手を広げすぎてどれも進まないときは、自分のやり方が悪いのではなく、抱えている数が多すぎるのかもしれません。

就労移行支援で、やることを絞って立て直す

支援員と利用者が、机に並べたカードの中から取り組むものを一緒に選んでいる様子

就労移行支援は、障害や病気のある方が、働くための準備を進める場所です。ここでは、Tossell氏の試みとよく似た立て直し方を、支援者と一緒に進めていきます。

抱えていることを書き出す

  • 今取り組んでいること、やらなければと思っていることを、まず全部書き出す
  • どれがどこまで進んでいて、どれが止まっているのかを一緒に確かめる

やることを絞る

  • 書き出したものの中から、今の目標に近いものを一つか二つ選ぶ
  • 困りごとがはっきりしないうちは、新しい道具や教材を増やさない
  • 「やらない」と決めたものも、責めずに脇へ置いておく

期間を区切って試し、外から振り返る

  • 「まず2週間」「まず1か月」と期間を決めて、絞ったことに取り組む
  • 期間が終わったら、支援者と一緒に、続けるか、やり方を変えるかを話し合う
  • 自分一人では気づきにくい変化を、外からの視点で言葉にしてもらう

Tossell氏がAshe氏との電話で考えを整理できたように、同じところを回っているときほど、外からの声が助けになります。支援者は、その役目を担う一人です。

答えがなくても、試しながら立て直す

支援員と利用者が、カレンダーの書かれたノートを前に、これまでを一緒に振り返っている様子

Tossell氏は、行き詰まりへの答えをまだ持っていないと書いています。それでも、配信を減らし、読まれていない購読を解除し、30日間のルールを決めて試し始めました。

やることを絞って、期間を区切って試し、振り返って、また決め直す。答えが出ていなくても、その繰り返しの中で、立て直しはもう始まっています。AIも道具も、自分の目標のために使うもの。振り回されそうなときは、いったん手を止めて、抱えているものを減らすところから始めてみてください。

IFキャリアステーション荒川について

IFキャリアステーション荒川は、IT分野に特化した就労移行支援事業所です。主に精神障害や発達障害のある方を対象に、パソコンやITのスキルを身につけながら、働くための準備を進めています。

  • 場所:西日暮里駅から徒歩5分
  • プログラム:10時〜15時

「やりたいことが多すぎて、何から手をつければいいか分からない」「始めても途中で止まってしまう」という方も、そのままで大丈夫です。まずは見学や相談で、今抱えていることを一緒に整理するところから始めましょう。

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