差がつくのは「方向のある意欲」|Anthropicのマネージャーがコーディング面接をやめた理由と就労移行支援

AIが広がり、プログラムを書く、文章を整える、資料を作るといった作業は、以前よりずっと手早くこなせるようになりました。では、作業が誰にでもできるようになったとき、働く人の何が見られるようになるのでしょうか。この記事では、AIを開発する会社で採用を担当するエンジニアの投稿を手がかりに、これからの就職活動で問われるものを考えます。

「コーディング面接は、もう意味がない」

Felix Rieseberg(フェリックス・リーゼバーグ)氏は、生成AI「Claude」を開発するAnthropic(アンソロピック)社で、エンジニアのチームを率いるマネージャーです。採用の面接も担当しています。Notion、Stripe、Slack、Microsoftなどでも働いてきました。

Rieseberg氏は2026年10月28日(日本時間)、X(旧Twitter)にこう投稿しました。

「コーディング面接は終わった。少なくとも、Anthropicの私のチームでは。もう判断材料にならないと分かったので、今月から面接の流れから外した。」

コーディング面接とは、エンジニアの採用でよく行われる、その場で小さなプログラムを書いてもらう試験です。

前日に公開したブログ記事「Hunger beats tenure(意欲は年次に勝る)」で、Rieseberg氏は理由をこう説明しています。小さなプログラムの課題は、これまでは「弱いけれど役に立つ」判断材料だった。けれども今は、そうした課題はClaudeのほうが上手にこなせる。そして実際に大きな成果を出している人たちは、その試験の出来とは関係なく活躍している、と。

作業のハードルは、大きく下がった

Rieseberg氏が挙げている例があります。

Anthropicの社内では、AIの開発ツール「Claude Code」を、文字を打ち込んで操作する画面で使うことに、みんなが慣れきっていました。そこへ、入社して日の浅いエンジニア2人が、週末のうちにボタンや画面で操作できる試作品を作りました。最初の公開版が出たのは、そのおよそ8日後だったそうです。

以前なら、新しい案を形にするには、企画書を書き、周りの賛同を集め、デザイナーなどの時間を確保する必要がありました。経験の浅い人の案は、そもそも通りにくかったのです。今は、AIを使えば、動くものを自分の手で短期間に作って見せられます。

Rieseberg氏は、「作業はもう高くつくものではなくなった」と書いています。そのうえで、経験年数の長い人を、経験の浅い人が追い抜いていく場面を何度も見てきたといいます。

年次ではなく、意欲。ただし向きのある意欲

ブログの題名にある「hunger」は、直訳すると「空腹」ですが、ここでは「何かを成し遂げたいという強い意欲」を指しています。

Rieseberg氏自身の失敗談も書かれています。Notionに入社してまもなく、Rieseberg氏はチームに大きなテレビを置き、仕事の状況を表示するダッシュボードにしたいと考えました。けれども社内の壁にぶつかり、そこまで強く押し通そうとはせずに諦めました。

1年後、新しく入ったJi Pei(ジー・ペイ)氏が同じ案を口にしました。Rieseberg氏は「もう試したから無駄だよ」と冷ややかに返しました。ところが、Ji Pei氏はすでに頼んでいて、翌日にはテレビが届いたそうです。Rieseberg氏は「その1年のどこかで、自分は古株になっていた」と振り返っています。

ここで見落としたくないのは、評価されているのが、単なる熱量ではないことです。Rieseberg氏は若手への助言の最初に、こう書いています。

「割り振られた作業を消化することよりも、事業への効果を選ぶこと。」

まず、自分の会社が本当に何を成し遂げようとしているのかを理解する。大きな会社なら、自分の部署が何を目指しているのかを知る。そのうえで、うまくいけばその目標に大きく近づける案を考え、動く形にして見せる。意欲は、会社の目指す方向とつながったとき、はじめて成果として伝わります。

さらにRieseberg氏は、「一つの試作品には一つの案に絞ること」も勧めています。いくつもの案を詰め込むと、良い案がほかに埋もれてしまうからです。

採用で何を見ているのかについても、Rieseberg氏はこう書いています。応募者の小さな試作品の中に、センス、使う人への共感、筋の通った考え方が表れているかを見ている。ただし、AIを上手に使う人をどう面接すればよいのか、まだ答えは出ていないとも認めています。

就職活動でも「相手の目指す方向」に意欲をつなげる

支援員と利用者が、資料に蛍光ペンで印をつけながら一緒に読み解いている様子

この話は、IT企業のエンジニアだけのものではありません。障害や病気があり、ブランクや職歴に不安を抱えながら就職を目指す方にとっても、考えるヒントになります。

AIの助けを借りれば、資料作りやデータの整理など、経験の浅い人でもこなせる作業は増えています。経験年数だけで比べられる場面は、少しずつ減っていくかもしれません。そのぶん、「この会社で、何のために働きたいのか」が問われるようになります。

ただし、「やる気があります」と伝えるだけでは、相手には届きにくいものです。大切なのは、次のような流れで、自分の意欲を相手の目指す方向とつなげることです。

  • 応募先の会社が、どんな理念を掲げ、何を目指しているのかを調べる
  • その中で、自分の得意なことや経験がどこで役に立てそうかを考える
  • それを、作った資料や作品など、目に見える形にして伝える

就労移行支援で、意欲を形にする準備をする

利用者が作った資料を掲げ、支援員が笑顔で親指を立てている様子

就労移行支援は、障害や病気のある方が、働くための準備を進める場所です。スキルを身につけるだけでなく、自分の意欲を、働く先の方向とつなげて伝える準備も一緒に進めていきます。

相手の目指す方向を知る

  • 気になる会社の理念や事業内容、求人票を一緒に読み解く
  • その仕事で、どんなことが求められているのかを整理する

自分の意欲と結びつける

  • 自分がやってみたいこと、得意なことを言葉にしていく
  • 「なぜこの会社で働きたいのか」を、相手の目指す方向と重ねて考える

小さな形にして伝える

  • 訓練で作った資料や作品を、応募先に合わせて見せられる形に整える
  • 一度にいろいろ詰め込まず、伝えたいことを一つに絞る

Rieseberg氏の例に出てくる「週末で試作」は、あくまで一つの例です。体調やペースは人それぞれ違います。大切なのは、短い期間で無理をすることではなく、今の自分のペースで、方向のある意欲を少しずつ形にしていくことです。

経験の長さより、どこへ向かうか

Rieseberg氏は、経験の浅い人がAIを使って成果を出す姿を見て、「希望が持てる」と書いています。経験の長さだけで評価が決まる時代から、どこへ向かい、それをどう形にしたかが見られる時代へ、少しずつ移り始めているのかもしれません。

意欲は、それだけでは評価になりません。相手が目指す方向を知り、そこに自分の意欲を重ね、小さくても形にして見せる。その積み重ねが、ブランクや経験の少なさに不安があっても、働く場所へ近づく力になります。

IFキャリアステーション荒川について

IFキャリアステーション荒川は、IT分野に特化した就労移行支援事業所です。主に精神障害や発達障害のある方を対象に、パソコンやITのスキルを身につけながら、働くための準備を進めています。

  • 場所:西日暮里駅から徒歩5分
  • プログラム:10時〜15時

「働きたい気持ちはあるけれど、どう伝えればいいか分からない」「経験が少なくて自信がない」という方も、そのままで大丈夫です。まずは見学や相談で、今の気持ちや状態を一緒に整理するところから始めましょう。

▶ 見学・相談のお申し込み

参考にした投稿・記事