AIに任せるほど、人の仕事は「判断」と「手放す」ことになる|Spawn創業者の記事と就労移行支援
AIに任せられる作業は、年々増えています。では、作業の多くをAIが担うようになったとき、人には何が残るのでしょうか。この記事では、AIに仕事の大部分を任せる会社を作ってきた創業者の記事を手がかりに、「判断すること」と「手放すこと」について考えます。
AIにゲーム作りを任せる会社
jacob(ジェイコブ、Xでは@jsnnsa)氏は、「Spawn(スポーン)」というサービスを作っている会社の創業者です。Spawnは、たくさんの人が同時に遊べるゲームを、AIと一緒に作れるサービスです。
jacob氏は2026年10月29日、X(旧Twitter)に「How I Built the Most AI-Pilled Company in the World(世界でいちばんAIに振り切った会社を、どう作ったか)」という長い記事を投稿しました。85万回以上表示され、多くの人に読まれています。
Spawnは社員10人ほどの小さな会社です。会社の中の仕事は、エンジンの開発から経理、不具合の仕分けまで、それぞれの担当を持ったAIの助手たちが進めています。記事には大きな数字もたくさん出てきますが、ここで注目したいのは、そこにたどり着くまでの遠回りと、その途中でjacob氏が手放してきたものです。
報われなかった2年
jacob氏がSpawnを始めたのは2024年です。最初から「AIが賢くなるほど大きく伸びる仕組み」を目指していました。いつかAIの助手が参考にできるように、創業以来の打ち合わせをすべて記録し、文字にして残してきたそうです。
けれども、その賭けはすぐには実りませんでした。
「その2年のほとんどの間、賭けは報われなかった。たくさんのモデル(AIの種類)を試したが、どれも賢さが足りなかった。製品をひどく壊してしまうこともあった。」
ようやく状況が変わったのは、2026年6月9日に新しいAIのモデル「Fable」が出たときです。2日後には、1日で214件の変更を製品に反映できました。ところが6月12日、輸出規制の命令によってそのモデルが使えなくなり、7月1日に再び使えるようになるまで、製品に出せた変更はゼロになりました。
方向は合っていたのに、2年近く結果が出ない。やっと動き出したと思ったら、自分たちの力ではどうにもできない理由で止まる。jacob氏の記事は、華やかな成果の前に、こうした停滞の時期があったことを率直に書いています。
詰まりの原因は、自分だった
AIの助手たちが本格的に動き始めると、仕事を止めていたものが一つずつ見えてきました。jacob氏たちは、そのたびに詰まりを取り除いていきます。そして10月、最後に残ったのは、jacob氏自身でした。
この機能は作るべきか。この設定は加えるべきか。これは削るべきか。AIの助手たちは、そうした判断が必要な問いを、jacob氏が答えるより速く見つけてきます。ある朝、目を覚ますと、判断待ちの問いが700件たまっていたそうです。
ただ、よく見ると、そのほとんどはjacob氏がすでに答えたことのある問いでした。「複雑すぎる」「その引き換えなら構わない」「まだ何か違う」。同じことを、何度も繰り返し言っていたのです。
そこでjacob氏たちは、2年分の会話の記録から、メンバー一人ひとりの判断の基準を「原則」としてまとめました。そして、その原則に沿って問いを仕分けるAIの判定役を作りました。判定役は、問いを受け取ると次の三つのどれかを選びます。
- 過去に誰かが答えていれば、それに沿って決め、どの記録に基づいたかを示す
- 問いの立て方がおかしければ、問いを出した側に差し戻す
- まだ誰も判断していないことなら、人の判断を待つ
判定役が動き始めてから8日間で、返ってきた判定は1万1千件を超えました。そのうち、jacob氏が自分で判断したのは27回だけだったそうです。判定役が間違えたときは、そう伝えれば、次から判定役がそれを踏まえて判定します。
記事のこの節には、「CEOとしての自分を解雇し始めた」という見出しが付いています。すべてを自分で判断しようとすることが、会社全体を止めていた。だから、自分の判断の基準を言葉にして、仕組みに任せた。jacob氏が手放したのは、仕事そのものではなく、「全部を自分で抱えること」でした。
「あと少し」の半年分を手放す
jacob氏が手放したものは、もう一つあります。
Spawnには、サーバー側でゲームの中の動きを計算する仕組みがありました。半年かけて作ってきたもので、エンジン全体のおよそ7割にあたります。その間ずっと、「あと1回の変更で完成する」と言われ続けていました。
6月、jacob氏はこの仕組みを見直し、「これを残しておく本当の理由は何か」と問いかけました。そして、丸ごと取り外しました。7月には、それを動かしていたサーバーも削除しています。
半年分の作業を手放すのは、簡単な決断ではありません。それでも、新しいAIが出るたびに、以前のAIのために作った工夫は意味を失い、むしろ足かせになっていく。それを取り除くのは今のところ人の仕事だ、とjacob氏は書いています。
人に残る仕事は、センスと「NO」と言うこと
では、AIに多くを任せたあと、人には何が残るのか。jacob氏は、その一つを「センス」と呼んでいます。製品を実際に使い、目指すものに近づけるための小さな判断や後押しを、何千回も重ねることです。
そしてセンスには、「NO」と言うことも含まれます。
「センスとは、たとえ動いていても、Claude(AIの助手)にNOと言うことでもある。」
AIの助手が出してきたものが、動いてはいても目指すものと違えば、差し戻す。ある助手が2日かけて、今の作り方のまま1〜3%ずつの改善を積み重ねていたときには、jacob氏はそれを止めました。必要なのは小さな改善ではなく、作り方そのものを変えることだったからです。
AIは、言われたことを続けるのは得意です。けれども、立ち止まって「そもそも、このやり方でいいのか」と問い直すことは苦手だ、とjacob氏は書いています。続けるか、止めるか、手放すか。その判断が、人の仕事として残っていきます。
働く準備でも、抱え込まずに頼り直す
この話は、AIで会社を動かしている人だけのものではありません。就職を目指して準備を進めるときにも、重なるところがあります。
- 方向は合っているはずなのに、なかなか結果が見えない時期が続く
- 体調や環境の変化など、自分ではどうにもできない理由で、準備が止まってしまう
- 何もかもを一人で決めようとして、考えることが積み上がり、動けなくなる
- 「あと少しで形になる」と思い続けて、合わなくなったやり方をやめられない
jacob氏が詰まりの原因に気づけたのは、たまっていた問いを見直し、「すでに答えたことを何度も繰り返している」と分かったからでした。そこで、自分の判断の基準を言葉にして、仕組みに任せました。
働く準備でも、同じ考え方が使えます。大事にしたい方向は変えなくていい。ただ、回らなくなったときは、一人で抱え込まずに手放し、仕組みや人を頼り直していいのです。
就労移行支援で、判断を言葉にし、頼り直す

就労移行支援は、障害や病気のある方が、働くための準備を進める場所です。ここでは、一人で抱え込まずに進めるための関わり方を、支援者と一緒に作っていきます。
たまっている迷いを見直す
- 気になっていること、決めかねていることを書き出す
- 同じことで何度も迷っていないかを、一緒に確かめる
自分の判断の基準を言葉にする
- 「こういう時はこうする」という自分なりの決まりを、少しずつ言葉にしていく
- 体調が崩れそうな時の休み方や、相談するタイミングなど、決めておけることは先に決めておく
- 決めたことは記録にして、支援者と共有する
手放すことも、選択肢にする
- 続けてきたやり方が合わなくなっていないかを、定期的に振り返る
- 「ここまで頑張ったから」ではなく、「今の目標に役立つか」で続けるかを考える
- やめると決めたことも責めずに、次のやり方を一緒に考える
自分だけでは判断しにくいことは、支援者に相談すれば一緒に考えられます。決めておいた基準があれば、迷う回数も少しずつ減っていきます。
方向は変えずに、抱え方を変える

jacob氏は、2年近く報われない時期を過ごし、外からの理由で止まり、自分自身が詰まりの原因になっていたことにも気づきました。それでも、目指す方向は変えずに、判断の仕方を仕組みに移し、半年分の作業を手放して進んできました。
うまく回らないとき、目指す方向まで手放す必要はありません。変えていいのは、抱え方です。一人で決めていたことを言葉にして共有し、合わなくなったものは手放し、仕組みや人を頼り直す。そうして空いた手で、自分にしかできない判断に向き合えばいいのです。
IFキャリアステーション荒川について
IFキャリアステーション荒川は、IT分野に特化した就労移行支援事業所です。主に精神障害や発達障害のある方を対象に、パソコンやITのスキルを身につけながら、働くための準備を進めています。
- 場所:西日暮里駅から徒歩5分
- プログラム:10時〜15時
「一人で考えすぎて動けなくなってしまう」「続けてきたやり方を変えていいのか分からない」という方も、そのままで大丈夫です。まずは見学や相談で、今抱えていることを一緒に整理するところから始めましょう。

